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Wednesday, December 30, 2020

今必要な「コロナ対策とリスク」の考え方とは? 国立感染研・脇田所長に聞く - Business Insider Japan

bantengkabar.blogspot.com

羽田

2020年1月20日の羽田空港。この当時は、まだ国内での感染例は散発的だった。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

中国で新型コロナウイルスの最初の発症者が確認されたとされているのが、2019年12月8日。

それからすでに、1年が経過している。

国内での感染者が最初に確認されたのは、2020年1月16日。1日に確認される感染者が1人、2人程度だった当時に対して、今や、全国で連日3000人を超える感染者が確認されている。

1年前に「未知のウイルス」だった新型コロナウイルスは、どこま既知となったのか。そして、11月頃から続く、感染の拡大を抑えるために、この先私たちは感染のリスクについてどう考えていく必要があるのだろうか。

国立感染症研究所・所長の脇田隆字氏に話を聞いた。

※取材は12月16日に行われており、その時点の情報に基づいています。

未知のウイルスはどこまで「既知」になったか

脇田先生

感染症研究所の脇田隆字所長。新型コロナウイルス感染症対策分科会などで忙しい合間に、取材の時間を頂いた。

撮影:三ツ村崇志

流行のはじまりから1年経過した今、あらためて新型コロナウイルスの脅威度をどう捉えるべきか、脇田所長は「物差しがないのですが」と前置きをしたうえで、次のように語る。

「例年、この時期にはインフルエンザや風邪の流行が起きることがあります。

今年は、マスクや手洗いという感染対策の結果、そういう話を聞くことは少なくなりました。一方で、コロナの感染は広がっています。定量的なことを言うのは難しいですが、それを見ると通常の風邪やインフルエンザと比べて(新型コロナの)感染性は強いというのが実感です。

病原性についても、お年寄りや、基礎疾患のある人にとっては重大な疾患だと思います」(脇田所長)

一方で、20〜50代の比較的“若い”世代では「風邪に近い」という話も多く聞かれる。

実際に感染した患者の話を聞くと軽症でも辛いケースはあるという。年代によって症状の幅が広いことが、この感染症の脅威度を非医療従事者に伝わりにくくしている側面もある。

重症化リスク

厚生労働省が公開している30代のリスクを1としたときの、各年代の重症化リスク。年齢が上がるにつれて、飛躍的にリスクが高まっていく。

出典:厚生労働省

インフルエンザは激減しているのに、なぜ、コロナの感染は減らないのか。

脇田所長はその理由を、

「2月、3月頃からずっと言っていた『クラスター感染』をしているのが原因です」

と言う。

「飲み会やカラオケ、若い人ならクラブなど、みんなそういった場所に行きたいですよね。それは分かります。ただ、コロナはそういった三密になりやすい場所で広がりやすくなってしまう特徴があります。

インフルエンザもそういった環境で感染が広がることはあるのですが、コロナは発症2日前から感染性が強くなる(※)ので、感染が助長されてしまう」(脇田所長)

※最後まで無症状だった人からも感染が広がることはあるが、感染性は比較的低い。

インフルエンザの場合、発症直後に高熱が出ることも多いため、三密の場に足を運びにくいことが予想される。

一方、コロナの場合、発症しても軽症で済む場合が多く、気づかぬうちに三密の場に足を運び、感染が広がってしまうという構図だ。

感染症としての性質が、かなり「やっかい」なのだ。

脇田所長は、一般的に三密といわれる環境のほかにも、行政の支援が届きにくい同郷の外国人が集まるコミュニティなどでは密なコミュニケーションが起きやすく、一度ウイルスが入り込んでしまうと一気に膨らんでしまう可能性があると懸念を示す。

感染対策の鍵となった「三密」

三密

3月段階から再三指摘されてきた三密。今なお、感染対策の基本といえる。

出典:東京都

2020年のコロナ対策は、大きく第1波、2波、3波に分けて考えることができる。日本が感染対策を進めていく上で、第1波の段階で、三密という考え方に気が付けたことは、大きく運命を変えた出来事だと言える。

「最初に中国から入ってきたときに、密閉、密集、密接するような場所(三密環境)で感染が起きやすいことが分かりました。それ以外の場所で感染が起きたとしても、ほとんどその先につながっていなかったんです」(脇田所長)

三密を回避することに力を注ぐだけで、クリティカルに感染の広がりを抑えられる可能性があるのだ。

第1波、中国からの流入による感染の広がりが見られた際には、それでなんとか抑えることができた。

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小池都知事が週末の外出自粛を強く訴えた直後、2020年3月28日(土)の新宿駅の地下道。いつもは人通りの多い新宿駅から、人が消えた。

撮影:三ツ村崇志

しかし、その感染が完全に抑制される前、2020年3月頃にヨーロッパから帰国した旅行者を介して感染が拡大。4月には緊急事態宣言が発令されることとなった。

「旅行する方は元気な方が多いんですよね。気づかないうちに感染して、持ち込んでしまったんだと思います」(脇田所長)

約1カ月半ほど続いた緊急事態宣言によって、感染状況はある程度収束した。しかしその後、夏には第2波を迎えた。

第2波は、いわゆる東京の「夜の街」でくすぶっていたウイルスを起点に、感染が全国に広がっていった。ただ、当時は繁華街の中で徹底した対策を行うことで、収束に持ち込むことができた。

緊急事態宣言

2020年4月7日、緊急事態宣言が発出された。

竹井俊晴

一方、繁華街以外の感染対策への意識は、緊急事態宣言を発出した頃に比べて長続きしなかった。

完全に感染が抑制できていないうちに、世の中が動き出してしまいました。地方ではもうほとんど感染者がいない状況だったのですが、東京では100人くらい感染者が出ていた頃です」(脇田所長)

経済活動を活性化させると、その分人の動きも増える。そうなれば、ある程度感染が広がることは自明だ。日々の感染者が増えもせず、減りもしない、拮抗状態となった。

「そこから冬になり、感染症が広がりやすい季節が到来しました。感染対策も慣れで緩んできた。こうして、感染者が増える方向に傾いてしまったのが12月の状況だと思います」(脇田所長)

なぜ第2波→第3波と感染が「くすぶった」のか

なぜ第2波から、第3波までに、感染がくすぶってしまっていたのか。

脇田所長によると、第2波の終わり頃、新宿・歌舞伎町などの歓楽街での感染者はそれほど多い状況ではなくなっていたという。

「それが東京23区全体に広がって、感染が継続している状況が何なのか考えていました。感染症対策の一番の肝は、『火元』がどこにあるかです。元を断ち切らないと、ふたたび拡散してしまうので」(脇田所長)

感染経路

分科会が分析した、場所別の感染者数。夏以降、恐らく夜の街を除いた飲食店の間で感染がくすぶりつづけている。

出典:新型コロナウイルス感染症対策分科会(2020年12月23日)

新型コロナウイルス感染症対策分科会では、感染に注意しなければいけない場面を、「5つの場面」として周知している。ただし、この5つの場面の大半は、マスクの着用である程度の対策ができる。

唯一、マスクによる対策ができないのが、会食、飲み会の場だ。

脇田所長は、大都市、特に東京で一番リスクが高いとされているのは、やはり会食・飲み会の場だという。

「地方でも感染の原因は飲み会なんです。ただ、地方だとクラスターが起きても誰が来ていたのか把握しやすい。一方、東京ではそれがなかなか難しい。

そういう場に行った人が家庭や病院にウイルスを持ち込み、保健所がそこで発病した人を確認することで感染の広がりに気づくんです」(脇田所長)

12月から1月にかけて、東京では連日感染者が増加の一途をたどっている。12月中旬頃には、「家庭内」での感染が増えていることが東京都から報告されていたものの、もとをたどれば家庭の外の三密の環境で飲食をした人が、家庭内にウイルスを持ち込み、感染が広がったケースが多い。

「家庭で感染がつながることは、基本的にありえないんです。家庭に入るとそこで終了なんです。職場で感染が広がることもありますが、職場は誰がいるか分かるので、追跡できる。ただ、その段階ではすでに二次感染、三次感染になっているんです。

その感染の大元が一番重要なのですが、たどれない」

今は、これまで見落とされていた感染の火元となりうる条件、環境要因がないかどうか分析を進め、リスクの高い場所を突き詰めているという。

リスクは「あり」か「なし」かではない

5つの場面

出典:厚生労働省

政府からは、いまだに感染が減少傾向にない地域に対して、忘年会・新年会は基本的に見送るように呼びかけがなされている。

とはいえ、いくらリスクがあると分かっていても、それを承知で友人らと飲食をともにしようとしている人が一定数いるのが現状だ。

そういった中で、市民レベルで感染対策を向上させるには、何に気をつければよいのだろうか。

「最近は『STAY WITH YOUR COMMUNITY』という言葉を使っています。よく会う人たちと一緒に過ごそうということです。一緒に生活してる人と過ごす分にはリスクが少ないんです」(脇田所長)

新型コロナウイルスの感染を防ぐことだけを考えるなら、「人に会う」ということをやめれば良い。ただし、それにも限界はある。その気持も大いに分かる。

リスクは「あり」か「なし」かの二者択一のような考え方をされがちだ。しかし、実際にはリスクは積み上がっていくようなイメージの方が近い。

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2020年12月、日々確認される感染者が増えていく中、なかなか東京の人出は減らなかった。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

人と会って会話をした後には、相手の飛沫が飛んでいるかもしれないので、手を洗う。マスクするにしても、飛沫の防止効果が薄いウレタンではなく、効果が高いとされている不織布のマスクにする。

「人と会う」というリスクを高める行為をする分、何か感染を抑えるための行動取ることで、リスクをある程度コントロールすることは可能だろう。

5つの場面のようなものを避ければ、ほとんど感染リスクはないと思っています。

私も、1人でお昼ごはんを食べに行くことがあります。そこでリスクがあるとは思えないので。例えば、牛丼チェーンで牛丼を食べて感染するかというと、多分しないでしょう。

一方、感染者の方々を見ると、カラオケを長時間やっていたり、お店をはしごしてたくさんの人と交流していたというケースが多いんです。ちょっと短時間にするとか、バランスをうまく取っていけば良いのだと思います」(脇田所長)

小さくても(意味のある)感染対策の積み重ねによって、自分が感染するリスクを下げることはもちろん、仮に感染してしまった場合にも、他のコミュニティに感染を広げにくくすることにつながるわけだ。

どうしても外にでて、人と会う機会のある人は、それをオンラインに切り替えられないか、人と直接会う数を少し減らせないかなど、考えてみて欲しい。

これに加えて、自身の体調管理も重要だ。

ちょっとでも体調が悪ければ、仕事を休む。人と会うことをやめる。

そういった選択を許容できる社会こそ、感染症に強い社会の姿なのだろう。

(文・三ツ村崇志

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