福島県をスタートした東京オリンピックの国内聖火リレーで第1走者を務めたサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」。トーチを掲げて走る大役を担ったのは、岩手県出身の岩清水梓（あずさ）選手（34）だった。出発地のサッカー施設「Jヴィレッジ」（楢葉町、広野町）を拠点に活動してきたことから、なでしこジャパンが選ばれたが、その中でも岩清水さんが大役を務めた理由は被災地出身だけが理由ではない。
午前9時40分、岩清水選手は笑顔で走り出した。なでしこジャパンの仲間と時に談笑しながら走った。2011年の東日本大震災の被災3県で使われた仮設住宅の廃材を再利用したトーチを掲げ、胸には万感の思いを抱いていた。
震災発生から4カ月後の11年7月、ドイツ・フランクフルトで行われたサッカー女子ワールドカップ（W杯）ドイツ大会決勝。それまで一度も勝てなかった米国を相手に2度追い付く驚異的な粘りを見せ、延長、PK戦の末になでしこジャパンは頂点に立った。
金色の紙吹雪が舞ったスタジアムで主将の澤穂希さん（42）を中心に日本選手の笑顔の花が咲いたが、岩清水選手は目を真っ赤にして泣きはらしていた。というのも、優勝の瞬間、岩清水選手はピッチに立てていなかったからだ。
日本の倍近い27本ものシュートを浴びた試合で、守備の中心だった岩清水選手は延長後半、危険なシュートを必死に防ぎに行った際のプレーで退場処分を受けていた。責任感の塊のような選手で、常に体を張り、強い気持ちを前面に出したプレーが特徴だ。「打たれたらやられると思った」とその場面を振り返ったが、大事な決勝で最後までプレーできなかっただけに、仲間への感謝と優勝の感激で涙が止まらなかった。
W杯ドイツ大会は、決勝で劇的なゴールを決めた澤さん、攻撃を組み立てた宮間あやさん（36）、彗星（すいせい）のごとく頭角を現して活躍した川澄奈穂美さん（35）ら攻撃陣が注目されたが、劣勢にありながら粘り強く守り抜いた守備陣の頑張りが初優勝を支えた。その守備の中心が岩清水選手だった。後方から味方を鼓舞し、気持ちの強さを持って最後まで諦めないプレーが身上だった。
被災地への思いも人一倍強い。自身のブログに「東北魂」と書き添えるなど、東日本大震災の被災地に思いを寄せ続けてきた。岩手県滝沢村（現・滝沢市）出身で、幼い頃に神奈川県に転居したが、夏休みの度に帰省しては岩手で遊んだ。W杯のころ、「東北への思いは人一倍あった。自分が、なでしこが頑張ることで（被災地の人々が）元気になってくれれば」と口にしていた。
そんな岩清水選手に大舞台で白羽の矢が立った。1年延期となった東京五輪は新型コロナウイルスの収束の見通しが立たず、いまだ逆境の中にある。その大会に向けた121日間の聖火リレースタート。澤さんが体調不良で聖火リレーを辞退し、川澄さんら海外でプレーする現役選手らが入国制限措置などで参加が困難だとして辞退を申し出る中、ひたむきな戦いぶりを見せたなでしこを象徴する選手の一人だった岩清水選手にトーチを手にする大役が回ってきた。
自身のブログの最後には「東北魂」と書き添え、震災から1年後のブログには「一日でも早く、みんなが笑顔になれる場所が戻りますように」と書き込んでいる。被災地にいいニュースを、伝えたい。そんな思いを持ち続けている選手だ。【江連能弘】
からの記事と詳細 ( 聖火リレーで大役 最初にトーチ掲げた岩清水梓選手の「東北魂」 - 毎日新聞 - 毎日新聞 )
https://ift.tt/3lSBT5R
No comments:
Post a Comment