今年4月、創部2年目を迎えた花巻東高校の女子硬式野球部に、思いがけないニュースが飛び込んできた。
夏の全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝を史上初めて甲子園球場で開催する――。「最後の夏」に臨む主将の河野瑠生(17)と田口雛乃(17)は「まさか甲子園を目指せる日が来るなんて」とそろって目を輝かせた。
監督の三鬼賢常(60)にとっても、久々に味わう高揚感だった。地元・三重県で野球漬けの高校生活を送ったが、「俺は甲子園に立ったことがないんだ」。三鬼がそう話すのを聞き、河野は「私たちが最初に監督さんを連れていきたい」との思いを強くした。
全国高校女子硬式野球連盟の加盟校は43校にとどまり、同大会に地方予選はない。節目の25回目を迎える今年は、過去最多の40校が出場した。
7月27日。兵庫県丹波市の試合会場に初出場の花巻東ナインが姿を現した。初戦は創部7年目の叡明(埼玉県)に4―0で勝利。続く29日の3回戦で、3年前の全国王者・京都両洋に挑んだ。
先発の大役を任されたのは1年の関口瑞生(15)。関口は「落ち着いて」と自分に言い聞かせ、マウンドに上がった。群馬県出身で、今夏の甲子園出場校・前橋育英でプレーする兄と同じ舞台を目指し、花巻東に飛び込んだ。
あと3勝すれば、甲子園にたどり着ける。そう思うと、緊張からボールが浮き始め、甘く入ったストレートを一発で仕留められた。「試合経験の差が出てしまった」。結局、一死しか奪えず5失点で降板。チームは、0―8で五回コールド負けを喫した。
ベンチで「すみません」とうなだれる関口に、副主将の田口は「何で謝るの」と寄り添った。「投げてくれるだけですごいんだよ」。その一言に、関口は「来年は先輩の気持ちも背負って投げよう」と決意した。
その日の夜、監督の三鬼は宿舎で部員48人に語りかけた。「大会ではベスト16だったけど、花巻東女子硬式野球部として足跡は残せたんじゃないか」。そう感じる出来事があった。
大会期間中、学校に1本の電話が入った。「花巻東の女子野球選手が、すごくいいあいさつをしてくれた」。同じ宿舎へ日帰り入浴に来ていた客からだった。
三鬼は昨年4月の着任から「勝ち負けに関係なく、応援してもらえるチームになれ」と言い聞かせてきた。その言葉を選手たちが自ら体現していた。「どれだけ練習して、どれだけ技量があっても、やっぱり一番大事なのはここだから」。三鬼がそう言って自身の左胸をポン、とたたくと、河野らは大きくうなずいた。
◇
この夏、部を引退した河野と田口は「チームメート」から「友達」に戻った。思い返せば、河野は田口と野球以外の話をした記憶があまりない。卒業まで野球から離れる少しの間、これまで実現できなかった2人の約束を果たしたいと思っている。
「仙台に遊びに行こうって計画してるんです。野球観戦じゃなく、でっかいチーズケーキを食べたくて」。いたずらっぽく笑いながら、女子高校生の顔をのぞかせた。
(敬称略)
(第一部おわり。連載は広瀬航太郎が担当しました。今後も不定期で掲載します)
からの記事と詳細 ( 監督を甲子園へ…最初で最後の夏に「足跡」 - 読売新聞 )
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