「婚活」に「思想」などあるのか? 本書『日本婚活思想史序説』(東洋経済新報社)の大上段にふりかぶったタイトルを見て、はじめはそう思った。
1970年代からこれまでの「婚活」論の変遷を、著者の佐藤信さん(東京大学先端科学技術研究センター助教)が「週刊東洋経済」に「榛原赤人」の筆名で連載したものをまとめたものだ。
『鈴木茂三郎』(藤原書店)、『60年代のリアル』(ミネルヴァ書房)などの著書がある政治学者がなぜ、「婚活」論の本を書いたのか。「婚活論とは人生論であり、仕事論であり、またこの少子化日本においては国家論ですらある」と狙いを書いている。
シングルをかかげた「クロワッサン」
いくつかの雑誌を素材に20世紀後半の婚活事情をまず探っている。「婚活0.0」の時代だ。「婚活」という言葉が生まれるよりずっと前、1980年代からすでに婚活は存在していたという。70年代には「見合い・恋愛混合型」の結婚が多くあったが、80年代に「婚活0.0」とでも呼ぶべき議論が登場する。
70年代後半から80年代前半にかけて、雑誌「クロワッサン」がかかげるシングル賛歌が一部の女性の支持を集めた。シングルを謳歌し、結果として婚期を逃す「クロワッサン症候群」という言葉も生まれた。
これに対して女性の側から結婚の価値を強調したのが、エッセイストでのちに作家となる林真理子さんだと指摘している。「私は、結婚を無邪気に信じられない女が、はっきり言って大嫌いである」とまで宣言していたそうだ。
「クロワッサン」の星であった作家の桐島洋子さんまでもが82年に結婚すると、時代は林さんの方向へ流れた。ちなみに林さんの仮想敵は作家の落合恵子さんだった、と書いている。
結婚するかどうかで女性や社会で議論があった時代から、「いつの間にか結婚や妊娠を歓迎するムードに変わっていた」。それを象徴するのが「結婚潮流」という雑誌だった。
戦略的に結婚を考えた「結婚潮流」
「結婚潮流」は、83年に大阪で生まれた。平均年齢24歳の若い女性編集者陣。最盛期には15万部にも達した。それまでもっぱら恋愛を扱っていた女性誌に対し、「結婚潮流」は理想としての恋愛と切り離した形で結婚を読者に提示した。
男性100人の釣書が毎号並ぶ誌面。もう一つの目玉企画は「職業別アタックシリーズ」。毎回「〇〇と結婚する方法」というタイトルで、医者、ボンボン(御曹司)、弁護士、商社マン、パイロットとかが並んでいたが、やがてネタ切れになり、学校の先生、電力マンといった具合になったという。
佐藤さんは「戦略的に結婚を考えようとする一貫した態度」に注目し、現代の婚活の走りだとして、「婚活0.0」と名付けた。
同誌は見合い結婚における属性重視の重要性を認めると同時に、そこから恋愛に持ち込むことを主張した。また共働きを理想としながら、現実的に専業主婦を選んででも結婚することの意義を強調した。しかし、やがて誌面が退潮し、87年1月号が終わりとなる。
「Hanako」と「ゼクシィ」
80年代後半から90年代にかけて女性の生き方を象徴するのが「Hanako」だ。会社からも家庭からも解放され、バブルの時代を謳歌した。同誌ではほとんど結婚特集を組まなかったそうだ。
「子どもを産むために結婚はするけれど、それまでは仕事も遊びも楽しむ」。それが「Hanako」の時代の結婚観だったという。
そして93年に結婚雑誌に特化した「ゼクシィ」が登場する。当初は結婚情報サービスを提供していたが、その後、成婚後に結婚式に向けての段取りを担当する雑誌になった。
「婚活」の3つの類型
ところで、「婚活」という言葉が最初に登場したのは、少子化ジャーナリストの白河桃子さんが、社会学者の山田昌弘さんにインタビューした「AERA」2007年11月5日号だという。山田さんが「就活」との関係から「婚活」を提唱した。「婚活」にあたる行為は以前からあったが、言葉が与えられることによって、「婚活」と「婚活」論はブームとなる。翌年に出た二人の共著『「婚活」時代』が火付け役になった。
この「婚活1.0」には以下の3つの類型があった、と佐藤さんはまとめている。
1 マーケティング婚活論 個人個人がそれぞれ、自分にあった家族のかたちと相手を選ぶことを重視し、そのために恋愛の幻想を排除した条件婚活を徹底し、そこでの競争において優位に立つためにできるだけ早い時期からの婚活を推奨する 2 社会改善+恋愛婚活論 共働きを推奨して条件面での高望みを縮減することで恋愛の可能性を広げる一方、妊活によって適齢期を設定することで少子化対策をも実現しようとする 3 速攻婚活論 独身脱出の期限を最重要視して、そのなかで条件を(できれば恋愛も)追求しようとする
そしてマーケティング婚活論がその中心となる。本書は「自分磨きの勧め」や「ありのままでいい」など、さまざまな婚活本の主張を紹介している。
ネット婚活の隆盛
最終章で、マーケティング婚活論の隆盛、そして婚活サイト、とりわけ婚活アプリの普及について論じている。巨大プラットフォームが今後ネット婚活により深く関わってくるとともに、そこで提供するアルゴリズムが配偶者選択に大きな影響を及ぼすようになると予想している。
本書のつくりはかなりユニークだ。真正面から「婚活」を論じた本文の下に、著者と担当編集者との雑談、つまり「副音声」とでも言うべきやりとりが載っている。
ここには「ママ名刺」から「セックスレスは身近に」、「アラサーは合コンしない」などリアルな本音が満載だ。
評者の周辺でも婚活サイトを利用している若い世代がいる。もはや見合いどころか、恋愛の契機すら見いだせない中で、それを頼りに婚活するしかないようだ。
婚活が変わる中で、結婚、そして家庭の姿も変わってゆくかもしれない。
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February 02, 2020 at 06:23AM
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「婚活」という言葉を最初に使った雑誌は? 『日本婚活思想史序説』 | J-CAST BOOKウォッチ - J-CASTニュース
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