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Friday, August 7, 2020

あおり運転で進む厳罰化、バイク跳ねて「はい終わり」に殺人罪で懲役16年 - MSN エンターテイメント

最高裁は7月31日、大阪府堺市で2018年7月に発生したあおり運転殺人事件で、殺人罪に問われ1、2審で懲役16年が言い渡された中村精寛被告(42)の上告を棄却する決定をした Photo:PIXTA © ダイヤモンド・オンライン 提供 最高裁は7月31日、大阪府堺市で2018年7月に発生したあおり運転殺人事件で、殺人罪に問われ1、2審で懲役16年が言い渡された中村精寛被告(42)の上告を棄却する決定をした Photo:PIXTA

大阪府堺市で2018年7月に発生したあおり運転殺人事件で、最高裁は7月31日、殺人罪に問われ1、2審で懲役16年が言い渡された中村精寛被告(42)の上告を棄却する決定をした。あおり運転に殺人罪の適用が可能との司法判断が確定し、東名道の夫婦死亡事故をきっかけにした今年6月の改正道交法施行で厳罰化も進んだ。高速道で男性を威嚇して殴る映像がテレビで繰り返し流された宮崎文夫被告(44)の初公判も先月27日に開かれたばかりだが、あおり運転に対する包囲網は着々と拡大している。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

被害者死亡は被告の想定内と殺意を認定

 1、2審判決によると、中村被告は18年7月2日午後7時半ごろ、堺市南区竹城台の府道で車を運転中、大学4年の高田拓海さん(当時22)のバイクに追い抜かれて立腹。

 急発進して約1分間にわたり追跡し、時速100キロ近いスピードで追突。高田さんに脳挫傷や頭がい骨骨折を負わせ殺害した。

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 裁判員裁判の1審大阪地裁堺支部の判決は、ハイビームの照射を続け、何度もクラクションを鳴らして「死んでも構わない」という気持ちで追突させたと殺意を認定した。

 被告側が控訴した2審大阪高裁判決も、ドライブレコーダーに記録されていた執拗(しつよう)な運転や、追突した直後の「はい、終わり」というつぶやきからは追突しそうになった時の焦りや驚きが伝わらず、被告の想定内だったとして殺意を追認した。

 実は最高裁で、事実関係について証拠を最初から精査し、有罪か無罪か、また量刑や事実認定にについて判断することはない。1、2審の公判手続きや司法判断に誤りがないか審理するだけで、公判が開かれることもまずない。

 分かりやすく言えば、1、2審の判決に法的な瑕疵(かし)がなかったかどうか見極めるのがメインで、ひっくり返る可能性など最初からなかったのだ。

 弁護人もそんなことは分かりきっているが、中村被告が「納得いかない」と依頼したため、やむを得ず手続きしたに過ぎないだろう。

 全国紙社会部デスクは「ドライブレコーダーの普及と今回の判決確定で、今後は目に余る悪質なケースは同様に殺人罪に問われるのではないか」と話した。

賠償の支払いを拒み感じられない反省

 最高裁が上告の棄却を決めた前日の30日には、高田さんの母親が中村被告に約9200万円の損害賠償を求めた民事訴訟の判決があった。

 刑事事件の判決同様、中村被告の「死亡しても構わない」という未必の故意による殺意を認定し、大阪地裁堺支部は約6100万円の支払いを命じた。

 この訴訟を巡っては、高田さんの母親が「刑事裁判の損害賠償命令制度」に基づき賠償を求めたが、中村被告が異議を申し立てたため民事訴訟に移行していた。

 損害賠償命令制度とは、刑事事件を担当した裁判所が有罪を言い渡した後、引き続き損害賠償請求も審理し、加害者に賠償を命じる制度だ。

 被害者や遺族が民事訴訟を起こす負担を減らすための制度だが、平たく言えば中村被告が損害賠償の支払いをごねたため、高田さんの母親が民事訴訟を起こさざるを得なくなったということだ。

 確かに、司法的に異議申し立ては認められた制度だ。

 刑事的にも殺意の認定を不服として最高裁まで争う権利を行使したわけだが、1審の裁判員、2審のプロ判事の判断と同様、おそらく世間の誰もが妥当な判決とみているはずだ。

 しかし、中村被告の態度には公判を通じて罪の意識を感じている様子はうかがえなかった。最高裁の決定が出た今も、何ら反省はしていないのではないだろうか。

映像と違い消え入るような小さな声

 強要と傷害の罪に問われた宮崎被告の初公判は水戸地裁で開かれ、罪状認否で「違うところはありません」と起訴内容を全面的に認めた。

 起訴状によると、宮崎被告は昨年8月10日、茨木県守谷市の常磐道で男性(25)の車に幅寄せや割込みを繰り返して停車させ、「殺すぞ」などと叫びながら顔を殴って軽傷を負わせた。

 そう、被害者男性のドライブレコーダーに残っていた映像がテレビなどで繰り返し流されたあの事件だ。

 ほかにも同7月23日、静岡県浜松市の東名高速で乗用車を、愛知県岡崎市の新東名高速でトラックをそれぞれあおって急減速させたなどとして計3つの罪に問われている。

 大阪府警に身柄を確保された際に大声で抵抗する様子の映像と打って変わり、この日は消え入るような小さな声。裁判長に「もっと大きな声で」と促される場面もあった。

 起訴内容が問われた時期はあおり運転が厳罰化された改正道交法の施行前で、検察側は異例とも言える強要罪の適用に踏み切っていた。

 検察側は証拠調べで、被害者男性のドライブレコーダーを再生。そして、宮崎被告が「私の方が速いのに相手が進路を譲らず、嫌がらせと思った」などとする供述調書を読み上げた。

 被告人質問では「相手に謝ってほしい気持ちがあった。同じことをされたら嫌な気持ちになると分かってほしかった」と弁明。

 そして「映像で日本中を恐怖の渦に巻き込んだ責任を痛感している。2度と繰り返さないよう努めていきたい」と声を震わせて謝罪した。

 取り消された運転免許の再取得については「車が好きなので取りたいとは思っています」とし、「安全運転の模範になるくらいの覚悟を持ちたい」と述べた。

あおりの車は殺傷能力の高い凶器

 冒頭に記述した通り、17年に起きた東名道の夫婦死亡事故をきっかけにあおり運転は社会問題化し、厳罰化に向けた気運が高まった。

 この事件後、全国の警察はあおり運転に暴行罪を適用するなど摘発を強化。宮崎被告の事件では前述のように、より罰則の重い強要罪を適用した。

 そして、世論に後押しされるようにして改正された道交法では、あおり運転を「妨害運転」と規定。

 他車の「通行を妨害する目的」で、逆走、急ブレーキ、車間距離不保持、危険な車線変更、左からの追い越し、ハイビーム、執拗なクラクション、幅寄せや蛇行運転、高速道での低速走行、同駐停車――の行為を対象とした。

 罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金で、高速道で「著しい危険」を生じさせた場合は5年以下の懲役または100万円以下の罰金となった。

 ただ、法が規定する「通行を妨害する目的」は容疑者が否認した場合、被害・加害両者のドライブレコーダーの記録のほか、両者や付近の通行車両のドライバーの証言などによる「故意性」の立証が必要となり、ハードルが高いとの指摘もある。

 しかし、車は便利な文明の利器だが、使い方を間違えれば拳銃や鋭利な刃物よりもはるかに殺傷能力の高い凶器になり得るのはご存じの通りだ。

 全国の警察にはあおり運転という常軌を逸した危険な行為を野放しにすることなく厳しく対応し、裁判所・判事も躊躇(ちゅうちょ)することなく厳罰で臨んでほしい。

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