菅義偉首相はなぜ、拒んだのか―。日本学術会議が推薦した一部の新会員候補の任命を、政府が見送っていた。過去に例のない露骨な人事介入ともとれる事態。法律や歴史学の立場から政権を批判していた学者らの任命拒否を、理由を明かさぬまま「当然だ」とする政府の姿勢には、意に沿わない者を排除しようとの意図も透ける。学者たちは不信感をあらわにし、決定の撤回を求める声が上がる。(梅野光春、望月衣塑子)
◆安保法案違憲と主張したせい?
「理由の説明がなく、到底承服できない。学問の自由への侵害ではないか」。拒否された1人、東京慈恵会医科大の小沢隆一教授(憲法学)が憤る。
思い当たる理由―。2015年7月、安全保障関連法案に関する衆院特別委員会で、野党推薦の有識者として「法案は違憲」と主張した。「仮に、政府の方針に都合の悪い発言をしたことが理由なら、自分たちに都合の悪い意見は聞かないよ、という意思表示ではないか」
小沢教授によると、推薦を受けたことは、事前に学術会議事務局から告げられていた。だが9月29日に、事務局から電話で「任命されない」と伝えられた。翌30日に担当者とあらためて面談した際、「(政府から)理由の説明はなかった」と聞かされた。
◆撤回求め「総力で」
1日の総会には出席。同じく任命拒否された早大法学学術院の岡田正則教授(行政法)、立命館大法科大学院の松宮孝明教授(刑法)と3人の連名で「任命拒否の撤回に向け総力であたることを求める」との要請書を、この日選出された梶田隆章新会長に提出した。
岡田教授は取材に「学術会議は学者の独立した審議機関なのに、(菅首相は)官僚組織の延長のように捉えているのかもしれない」と話した。
松宮教授は「法律的には、首相は推薦通り任命するつくりになっている」と指摘し、「憲法に保障されている学問の自由と、学術会議の独立性を脅かす暴挙だ。そもそも彼らに選別できる能力は備わっていない」と強く批判した。
◆「理由なく承服できない」
日本学術会議の山極寿一前会長の話 任命権者は首相だから、新会員を任命しないことはありうる。だが学術会議としては、業績に基づいて推薦している。任命しないならば相当の理由が必要だ。理由を付けずに任命しないということがまかり通るなら、学術にとって大変、重大だ。私としては承服できない。
◆「首相に抗議申し入れも」
梶田隆章新会長の話 極めて重要な問題だ。しっかり対処していく。会長になる前は、学術会議の中立性、学問の自由に関わる問題ではないかと思った。首相に抗議を申し入れる可能性はある。具体的にどうするかは白紙の状態だが。
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