誰もが、家族や親友にさえ打ち明けられない自分だけの「小さな秘密」を持っている。その「小さな秘密」が巻き起こす様々な日常エピソードをシュールなタッチで描き、カルト的な人気を誇るのが、大橋裕之の漫画『ゾッキ』だ。
この原作を竹中直人、山田孝之、齊藤工という3人の役者が監督した映画『ゾッキ』が公開中だ。同作の監督のひとりである齊藤工に、自身の監督パートで主演を務めた芸人「コウテイ」の九条ジョーの役者としての魅力や、作品の見どころなど語ってもらった。
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齊藤にとって竹中・山田との共同監督は必然だったようだ。
「僕は竹中さんの初監督作『無能の人』(1991年)に感銘を受けて、20代の最後に監督業に思い切ってトライしたんです。竹中さんにはその頃からずっとクリエイティブな大きな背中を見せてもらっています。
そして山田孝之さんの前例がないところにぐんぐん進んでいく、“山田孝之の轍” にはものすごく刺激を受けています。
俳優の枠に収まらないおふたりの影響を受け、微力ながら “齊藤工” の立場だったら何ができるだろうと考察しながら、活動してきたのです」
原作にほれ込んだ竹中の誘いを受けた山田孝之と齊藤工が、監督として参加。それぞれが監督した短編エピソードが、シームレスにつながり、ひとつの長編作品として成立している。
「脚本の倉持裕さんが、上手にひとつの世界観にまとめてくださったのだと思います。竹中さんや山田さんとの話し合いはまったくなかったんです。それぞれが好きな短編を選び、自由に監督しました」
齊藤監督のパートでは、森優作演じる「牧田」と九条ジョーが演じる「伴くん」の、高校時代の奇妙な友情が描かれる。
「僕のエピソードでは、伴くんと牧田との友情を描いているのですが、全編観ることで、非常に長い時間の出来事が描かれていたのだとわかる。不思議な時間軸・世界線の物語になっていると思います」
「ちょっと変人ながらもリアルな男子高校生・伴くん」役の九条ジョーは、松田龍平、吉岡里帆、鈴木福、安藤政信、ピエール瀧など、豪華な出演者たちが集う作品のなかで、ひときわ異彩を放っている。
「原作でも描かれている伴くんの得体の知れない魅力というか、引力。これは自分が役者だからわかるのですが、伴くんを演じれられる既存の役者はなかなかいませんでした。
ある番組でネタを披露しているコウテイさんを観たときに、技術などではなく九条さんの不気味で優雅なたたずまいが『伴くんかもしれない』と思い、出演オファーをしたんです。映画出演の依頼を、彼はドッキリ番組だと思ったそうです(笑)」
コント以外では一度も演技経験がなかったが、九条はこの役のため、ストレートの黒髪をすべて反り上げ、坊主頭で撮影に臨んだ。齊藤はそんな九条に「『好きに演じてくれたらいい』とお願いしました」という。
齊藤がこの映画で描きたかったものとは?
「大橋さんの原作は、どのキャラクターやエピソードにも、誰しもが心当たりがあるというか、自分が味わったことのある “風味” みたいなものがあって、その感覚を映画を観てくれた方にも感じてほしいという意図がありました。
撮影中、映画『ジョーカー』が世界的に流行っていて、『劇中の伴クンは日本のジョーカーではなくて、撮影された愛知県蒲郡市のジョーカーだ』と真面目に思ったんです。
映画『ジョーカー』はあれだけダークな作風で、現代のアメリカの労働者階級の人々の生き方、アメリカ現代社会を象徴的に描いていた作品だと思います。各人が心の傷をなぞるような観かたをしていた映画だったと思うのです。
『ゾッキ』の伴クンも、象徴というか作品の概念のような存在で、“みんなのなかに伴くんがいる” という気がしていたので、そこは伝わるよう、丁寧に描きたいと思っていました」
映画撮影時とは、コウテイを取り巻く環境も変わった。
「撮影から公開までの1年間で、コウテイは『ABCお笑いグランプリ』で優勝し、『M-1』決勝でも大きな爪あとを残すなど、大躍進していると思います。
『ジョーカー』のホアキン・フェニックスのように、『ゾッキ』前後で、九条さんの世間の評価もさらに変わってくると確信しています。すごい人に、伴くんを演じてもらったのだと、いま実感しています。
映画って “そのとき” を描いているものでも、公開時に世の中の状況も変わっているものなんです。ですから、推察・憶測はあると思いますが、映画を作ることで未来を切り取っていくという意味もある。九条さんはこの作品の象徴として、そこをしっかりと担ってくれたのだと確信しています」
※『ゾッキ』公開中。イオンエンターテイメント配給
写真(C)2020「ゾッキ」製作委員会
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