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Thursday, February 17, 2022

アマゾン独特の「逆から進める仕事法」が超合理的な訳 - ダイヤモンド・オンライン

bantengkabar.blogspot.com

『アマゾンの最強の働き方──Working Backwards』が刊行された。アマゾン本社の経営中枢でCEOジェフ・ベゾスを支えてきた人物が、アマゾンの「経営・仕組み・働き方」について詳細に公開した初めての本として大きな話題になっている。
アマゾンで「ジェフの影」と呼ばれるCEO付きの参謀を務めたコリン・ブライアーと、バイスプレジデント、ディレクター等を長年担ったビル・カーが、「アマゾンの働き方を個人や企業が導入する方法」を解き明かした、画期的な一冊だ。
本稿では『アマゾンの最強の働き方』より、通常とは反対の流れで仕事に取り組む「ワーキング・バックワーズ」という方法について語った部分を紹介する。

アマゾン独特の「逆から進める仕事法」が超合理的な訳Photo: Adobe Stock

通常とは反対の流れで考える

 2004年以降に誕生したアマゾンの主要なプロダクトや新規事業には、アマゾンらしい共通の特徴がある。それらの多くが、顧客体験を起点として開発に取り組む「ワーキング・バックワーズ(逆向きに取り組む)」と呼ばれるプロセスによって実現したということだ。

 これはアイデアを吟味し、新しいプロダクトの創造に結びつけるための体系的なアプローチである。

 まず、あるべき顧客体験を定義し、それを実現するためにいま何をすべきかと、さかのぼっていくかたちで考える。どんなプロダクトをつくればよいのか、関係するチームの思考が明確になるまで、この作業を繰り返すのだ。

 ここで登場するのが、後述する「PR/FAQ(プレスリリース/よくある質問)」である。

 私たち2人(ビルとコリン)はその誕生に立ち会うことができた。このプロセスを導入したとき、コリンは「ジェフの影」の立場にあった。導入から12ヵ月、ジェフ(ベゾス)が出席したワーキング・バックワーズのプロセスを検討する会議のすべてに参加した。ビルは、この概念を新商品開発の初期段階から適用し、改良を重ねた。それは、のちにあらゆるデジタルメディア事業の開発へとつながる、貴重な実験でもあった。(中略)

何もない時点で「プレスリリース」を書く

 ジェフは考えを進めた。(企画スタート時の)商品コンセプトの説明文が「プレスリリース」だったとしたらどうだろう。

 普通ならプレスリリースは、商品開発工程の最後に作成するものだ。エンジニアやプロダクトマネジャーが担当業務を終えると、今度はマーケティングや営業部門にバトンを渡す。多くの場合、ここで初めて顧客の視点に立ってプロダクトが吟味される。そしてマーケティングや営業部門が、画期的な機能や優位な特長をプレスリリースで表現する。注目を集め、口コミを広めるため、そして何より顧客に喜んで買ってもらうためだ。

 この一般的なプロセスでは、企業は現在から将来に向かって仕事をする。リーダーはまず会社にとって利益となるプロダクトや事業を構想し、そのあとで従来は満たされていなかった顧客ニーズを満たそうと努力する。

 このようなやり方では、望ましくない結果に終わることがあるとジェフは考えていた。

 それを説明するため、彼は架空の例として、ソニーが新しいテレビを開発するケースを考えてみようと言った。

 営業とマーケティングの各部門は、顧客の嗜好と市場動向(必ずしも顧客体験ではない)を精査した結果、44インチのテレビの適正な販売価格は1999ドルだと判断した。一方、技術部門は長らく高解像度の画質を追求しており、価格のことは特に考えていなかった。そうして彼らは製造するだけで2000ドルかかるテレビを開発した。つまり小売価格1999ドルでの発売はあり得ないという結果に終わる。

 もし、すべての関係部門が、まず最初にプレスリリースを作成してから開発に着手していたら、機能、費用、顧客体験、価格について合意できていたはずだ。そこからさかのぼるかたちで考えて、どのようなプロダクトをつくるべきか検討できたはずだし、開発や製造の過程における課題をあぶり出せたに違いない。

「理想の体験」からさかのぼって、Kindleは完成した

 デジタルメディア・グループが最初に発表した製品がKindleだった。まず最初にプレスリリースを書く「ワーキング・バックワーズ」によって生まれた最初の商品の1つである。

 Kindleは、あらゆる面で画期的だった。それは先端的なEインクのディスプレイを採用していた。顧客はこのデバイスで直接書籍を探し、買い、ダウンロードできる。パソコンやWi-Fiにつながなくても使うことができる。

 当時、ほかのどんなデバイスやサービスと比べてもKindleで読める電子書籍は多かったし、価格も安かった。多くの機能はいまではありふれたものだが、2007年当時のKindleは画期的だった。

 しかし、当初からKindleにこれらの機能を搭載することを想定していたわけではない。

 開発の初期段階では、顧客の視点から見て、魅力的な機能を備えたデバイスとはどんなものなのか、特長を述べることがまったくできていなかった。

 プレスリリースによる開発手法を導入する前だったので、私たちはまだパワーポイントとエクセルを使って考えていた。重視していたのは、技術的な課題、ビジネス上の制約、売上や財務指標の見通し、マーケティング戦略といったことだ。要するに私たちは「現在」に軸足を置き、その延長線上で仕事をしていた。顧客ではなく、アマゾンという企業にとって有益な商品を創造しようとしていたのだ。

 だが、最初にプレスリリースを書いてから商品開発を始めると、すべてが変わった。私たちは、顧客にとって最善であることをめざすようになった。

 素晴らしい読書体験ができる最高品質のスクリーン、書籍の購入とダウンロードが簡単な注文プロセス、豊富な品揃え、低価格。プレスリリースを用いた方式でなければ、こうした最上の顧客体験を実現するための突破口は開けなかったに違いない。おかげで開発チームは、顧客の課題を解決する手段を数多く考案できるようになった。

社内外からの「ありそうな問題」に先手を打つ

 私たちは次第にこの開発プロセスに熟達していった。やがて「プレスリリース」(PR)を改良し、2つ目の要素をつけ加えた。「よくある質問とそれに対する回答」(FAQ)だ。

 FAQは改良するにつれ、社外からの質問と社内からの質問の両方に対応するようになった。

 社外とは、マスコミや顧客のことだ。「アマゾン・エコーはどこで購入できるか」「アレクサは何をしてくれるのか」といった質問だ。

 社内とは、社員や経営幹部を意味する。

「HDディスプレイ搭載の44インチテレビを粗利25%、小売価格1999ドルで販売するにはどのように製造すればよいか?」
「顧客が通信事業者と直接契約しなくても、ネットに接続して購入した書籍をダウンロードできるようなKindleのリーダーはどうしたら実現できるか?」
「この新しい着想を実現するには、ソフトウェア開発者とデータサイエンティストを何人採用する必要があるか?」

 といった質問が想定される。

 つまりFAQとは、書き手が顧客の視点から計画を詳細に説明したうえで、社内のオペレーション、技術、プロダクト、マーケティング、法規制、事業開発、財務といった観点から、あらゆるリスクや課題について述べる場なのである。ワーキング・バックワーズのための文書は「PR/FAQ」として社内に周知されていった。

(本原稿は『アマゾンの最強の働き方』からの抜粋です)

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