「殿様に献上された」という厚焼き玉子がしみじみとうまい
昔から通ってるいい寿司屋がありまして、席に着くと自然とおまかせでつまみが出てくるんですね。
途中からにぎりに変わり、そろそろお腹がいっぱいだなと思ったころ、締めに厚焼き玉子が出てきます。
これが甘くてやわらかくてふわふわで、ご馳走としか形容できないうまさなんです。
締めのこれがいつも楽しみで、途中からソワソワしてしまうんです。
調べたら宮崎県の飫肥(おび)という旧城下町の名物とされる郷土料理で、「殿様に献上された」と言われる厚焼き玉子に近いと思いました。
そこで今回は、甘くてほっぺたが落ちそうになる厚焼き玉子を作ってみようと思います。
でも作り方はまったくわかりません。
ネットやら書籍を駆使して1週間かけて調べたところ、だいたいではありますが、材料と作り方がわかりました。
材料は比較的シンプルだけど、とにかく製法に手がかかっているんです。
飫肥では今でも昔と変わらぬ製法で作り続けているそうで、ふるさと納税の返礼品にも選ばれています。そんな厚焼き玉子の作り方を、順を追って紹介していきます。
最高の厚焼き玉子の作り方
こちらが材料です。
材料(作りやすい量)
- 玉子 5個(Mサイズ)
- みりん 25ml
- 酒 25ml
- 砂糖 60g
- 塩 ひとつまみ
- 水 100ml
- はちみつ 小さじ1
メインはもちろん玉子ですが、この砂糖の量を見ると、甘さがレシピのキモだとわかります。
昔、砂糖は貴重品でしたから、これほどたっぷり砂糖を入れる厚焼き玉子はさぞかし贅沢品だったのだろうと思います。
まずはカラザなどを取りのぞいてから玉子を溶きます。
上記のすべての材料を混ぜ合わせて、箸を立てて切るように混ぜます。シャカシャカ。
かれこれ5分ほど混ぜたでしょうか。リズムに乗ってシャカシャカ。
いい塩梅になったところで、万能こし器で卵液をこします。
こうすることでなめらかな食感を作り出すんですね。万能こし器に残ったものをしっかりと洗い流して、この工程を2度繰り返します。
出来上がったのがこちら。泡はお箸などで突くと消えます。気になる場合はキッチンペーパーでそっと触れるときれいになります。
重要な調理アイテム「銅製の玉子焼き器」
さっそく火にかけていきましょう。
ここで秘密兵器が2つ登場します。最初はこちら。自宅になくても、テレビで見たことがある人もいることでしょう。こちらは「銅製の玉子焼き器」です。
銅は熱の伝道率が高く、まんべんなく火が通り、ふわふわの厚焼き玉子ができるため、手仕事にこだわる和食店などではほとんどこの玉子焼き器を使っています。
その間に炭をおこします。
「え? 炭?」と思ったあなた。そうですよね。
私も何をやってるんだと思いますもの。
でもね、昔ながらの製法にこだわって、炭と、炭おこし器を買ったんですから、ちょっとだけ誉めてください。
ちなみに、この炭おこし器は本当に優秀で、数分火にかけると、あっという間に炭に火がつくんです。ではこの炭を何に使うかというと。
秘密兵器その2は「七輪」でした。
今回はお手頃の卓上サイズの七輪を購入して、これで厚焼き玉子を作ります。
本記事とはあまり関係ないのですが、この子が本当に優れもので、たとえば一人晩酌の時にテーブルに置いておけば、スルメを炙ったり、はたまた焼き鳥を温めたりと、いろんな使い方ができるんです。
世界中の酒飲みにこんな素晴らしいアイテムを教えたら大変ですよね。半導体の次は、卓上七輪が不足すること間違いなしです。
※屋内で七輪を使用する場合は、換気にはご注意ください。また、火災報知機の近くや、狭い部屋での使用はお控えください。
さっそく火にかけてみる
ということで前段が長くなりました。キッチンペーパーに染み込ませた油(分量外)を玉子焼き器の銅肌に擦り付けてから、卵液をそそぎ、火にかけます。
今回は我が家のダイニングテーブルで調理していますので、七輪の下には断熱のために板を敷いています。
じんわりとした火勢なので、しばらく眺めていてもわかりやすい変化は起きません。
卵液が温まるのをゆっくり眺めながら、卵液の気泡を突いてつぶします。厚焼き玉子の食感を良くするために、大事な工程です。気が済むまで気泡を取りのぞきましょう。
さて、次の工程に進みましょう。
この玉子焼き器は下からの熱はしっかり通るのですが、上部(表面)はなかなか熱が入りづらいんですね。いつもの厚焼き玉子だったら、途中でくるくると上下を入れ替え巻いていくからいいのですが、このレシピは、ただひたすらじっと待つだけ。
ということで、上からも熱を与える必要があるんです。
ある地方では玉子焼き器の上に鉄鍋を置いて、その上に炭を置くという手法を使っているそうで、私もそれを真似しようと思います。
バットの上に炭を置いてるのがわかりますか。
ということで、ここから本当の調理スタートです。
焼き時間はだいたい60分。その間ひたすら待ちます。炭は火力が一定しているので、いきなり焦げるということはないと思うのですが、途中で何度かバットを持ち上げて確認します。
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しかし、ここで問題が発生しました。
玉子焼き器に入れた卵液の量が多すぎたのです。そうするとどうなるか。
こうなりました。ふくらんだ厚焼き玉子が上のバットにくっついてしまったのです。
さらに、玉子焼き器の左手前の卵液にはまだまだ火が通っていないのがわかります。うーむ。
このあと、上に被せていたバットをとって、七輪のみで加熱して、一応完成。
ちょっと残念な見た目になってしまいましたが、とりあえず味見をします。
うん。甘くて、しっとりとして、おいしいです。なんて上品な味なんでしょう。
だけど見た目がもったいなかった。うーん。
ということで、頭を捻った結果、思いつきましたよ。それがこちら。
ガラスの耐熱容器を使ってみる
ガラスの耐熱容器に入れます。
そうです、オーブンレンジを使うのです。文明の利器、最高じゃないですか。
ちなみに、卵液を容器に注ぐまでの工程は、先ほどと同じです。
同じように、目立つ泡はキッチンペーパーで突いてつぶしましょう。
そして、オーブン機能を活用します。余熱なしの120度で50分。
こちらの温度と時間でよろしくお願いします。さあ、いってみよう。
ひたすら待って、待って待ち続けて、ようやく完成です。
見てください。この見た目の美しさを。「プリンじゃないか」と思った人は今すぐ退場してください。これは誰がなんと言おうと厚焼き玉子なんです。
あまりに上手にできたので記念撮影。
あれ、さっきより小さくなってる? 時間が経つにつれ、厚焼き玉子が萎んでいくので早めに食べましょう。
ほれぼれする美しさ
大きなスプーンですくってお皿に盛り付けます。うん。これは、間違いない出来栄えです。
中までまんべんなく火が通っているので、きれいな断面を描いています。
ああ、なんて美しいんでしょう。
スプーンですくって、そのまま食べようかと思ったのですが、これはプリンではありませんから、箸で食べますね。
撮影のためにフォークでひと口分切って、写真撮影が終わったところで、ぱくり。
うん。うまい!
口の中に入れると、やわらかくつるつるっとした食感が舌の上で踊ります。すこし噛むと甘さが口いっぱいにあふれ、あっという間に胃の腑に落ちていきます。なんてシンプルなうまさなんでしょう。
現代は甘いものがあふれていますよね。
いろいろなお菓子が増えすぎた結果、甘くないスイーツが売り出されたりして、私たちはいったいどこに向かっているんだろうと思うことがあります。
でも、この甘くてやさしい厚焼き玉子を初めて食べた時、甘いものは本当にご馳走なんだと気づかせてくれたんです。そう、甘いものはうまいんです。
この厚焼き玉子は、素朴で、飾りけはありません。でも、品がある。この味が大切に受け継がれてきたこと、これこそが食文化だと思いました。
この味を試してみたい、そう思った方はぜひ挑戦してください。私はいつかまた、自分へのご褒美に焼こうと思いました。それでは。
書いた人:キンマサタカ
編集者・ライター。パンダ舎という会社で本を作っています。 『週刊実話』で「売れっ子芸人の下積みメシ」という連載もやっています。好きな女性のタイプは人見知り。好きな酒はレモンサワー。パンダとカレーが大好き。近刊『だってぼくには嵐がいるから』(カンゼン)
からの記事と詳細 ( 君たちはお寿司屋さんレベルの「厚焼き玉子」を自宅で焼いたことはあるかい - メシ通 )
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