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Tuesday, January 11, 2022

最初の登庁者が初動指揮 組織一丸で縦割り打破…阪神大震災27年 防災変わる「常識」<下> - 読売新聞

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 夜間や休日に災害が起きたら、役職や経歴に関係なく、最初に登庁した職員が〈初動リーダー〉となって後から来る職員を指揮し、1時間後には災害対策本部会議を開く――。そんな行動計画を作り、訓練を重ねている自治体がある。

 2016年の熊本地震で被災した熊本県 益城ましき 町。夜間に起きた地震に、職員はバラバラに対応して初動が混乱した。幹部も場当たり的に現場へ散ったため、対策本部の統一的な対応方針を決めるべき第1回の会議には西村博則町長(65)ら4人しか集まらず、ほとんど何も決められなかった。

 「組織の対応力を底上げしないと、同じことを繰り返す」。危機感を抱いた西村町長は、改革の旗振り役を外部の人材に委ねた。

 白羽の矢が立ったのは今石佳太さん(65)。兵庫県芦屋市職員として阪神大震災以来、防災や危機管理の道を一筋に歩いてきたプロだ。他地域で災害が起きれば足を運んで地元の対応を支援し、熊本地震でも益城町に助言を与えていた。17年に定年退職した後、芦屋市に再任用されていた今石さんを、益城町は18年、初代の危機管理監に招いた。

 着任した今石さんは「目標に向けて組織が一丸となって動く仕組みや意識が欠けている」と感じた。

 行政機関では、部局ごとの縦割りで業務を粛々と進めるのが常識だ。だが、通常とは異なる業務が大量に発生する災害時には、平時体制のままでは仕事の押し付け合いや特定部局への集中といった弊害が生じ、指揮命令系統も曖昧になりがちだ。組織を横断した全庁的な体制を作り、優先度の高い業務に人員を振り分けるといった工夫をしなければ乗り切れない。

 今石さんが初動リーダーの仕組みを作ったのは、部局ごとで走り出す前に、組織一丸となった体制を築くという狙いがある。庁舎の安全確認、非常電源の起動、対策本部室の設営などリーダーが指揮すべき業務は、イラストと短い文章でわかりやすく示した「アクションカード」に整理した。町長にも知らせない抜き打ちの参集訓練を繰り返し、練度を上げている。

 発想を変えるための演習も重ねる。「道路橋が壊れた時はどの部局が動く?」。問われた職員が挙げるのは、初めは道路関係に限られていたが、次第に「孤立する地区への支援も必要だ」「橋に水道管が併設されているなら、断水への対応もいる」と目配りが利くようになってきた。「組織が変わってきた」。今石さんは手応えを感じている。

 非常時には、平時の体制を組み替えて対応する自治体も出てきた。04年の中越地震以来、豪雨や地震が相次ぐ新潟県は、災害対応のつまずきを何度も経験してきた。「通常体制のままでは円滑に動けない」。その反省から、災害時には▽食料物資▽被災者対策▽生活再建支援――など6部の体制に組織を再編成して対応する仕組みを導入した。各部は、平時の部局が混在して構成される。こうした仕組みは他の自治体にも広がりつつある。

 手本にしたのは、米国の「インシデント・コマンド・システム」という危機管理の手法だ。〈1〉指揮調整〈2〉事案処理〈3〉情報作戦〈4〉資源管理〈5〉庶務財務――の5機能に沿って組織が編成され、明確な指揮命令系統の下で業務が遂行される。

 防災科学技術研究所の林春男理事長によると、1970年代の森林火災で対応に失敗したのを契機に作られ、全米共通の標準化された手法として定着した。システムに則した研修プログラムも完備している。どの組織も同じやり方を採用しているため、外部からの応援部隊が地元と円滑に連携できる利点もある。

 組織一丸で対処するために自治体が創意工夫することは大切だが、南海トラフ地震のような巨大災害に備えるには、広域応援がしやすいように手法を標準化する必要もある。どうすれば縦割りを打破できるのか。行政にとって難度が高い課題を巡り、模索は続く。

 (編集委員 川西勝)

  熊本地震  2016年4月14日夜の前震と16日未明の本震で、ともに最大震度7を観測した。関連死を含めて276人が死亡し、約20万棟の家屋が損壊した。

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