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Monday, March 2, 2020

「コウモリ」はなぜ「ウイルスの貯水池」なのか(石田雅彦) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

 新型コロナウイルス(COVID-19、以下、新型コロナ)が世界中で猛威をふるっているが、このウイルスはSARS(SARSr-CoV、重症急性呼吸器症候群)と同じ人獣共通感染症(Zoonosis)だ。こうしたウイルスの自然宿主(最初にウイルスにかかった生物)はコウモリとされているが、なぜコウモリ起源のウイルスがこんなに多いのだろうか。

コウモリが感染させるウイルス

 人獣共通感染症はヒトの感染症の60%以上を占める。世界で毎年約10億人が病気になり、数百万人が死ぬ病気だ。人獣共通感染症では、野生生物を自然宿主にしていた病原体(ウイルス)が、家畜などの脊椎動物や昆虫などの無脊椎動物を経由し、ヒトへ感染して広がっていく。

 ウシから天然痘や結核、ブタやアヒルからインフルエンザ、ヒツジやヤギから炭疽症、ネズミ(齧歯類)からペスト、主にイヌ(ネコやコウモリなども)から狂犬病といった人獣共通感染症があるが、サル免疫不全ウイルス(SIV)が変異してヒトに感染してヒト免疫不全ウイルス(HIV-1、HIV-2)になったようにヒトと野生生物の接触によって感染が広がることも多い(※1)。

 自然宿主には、狂犬病、エボラ出血熱、SARSなどコウモリが多く、コウモリの次は霊長類、齧歯類の順になるようだ。また、世界で新たな人獣共通感染症リスクの高い地域としては、コウモリのウイルスはアジアの一部と中南米で多く、霊長類は中米、アフリカ、東南アジアに集中し、齧歯類は北米、南米、中央アフリカの一部と予測されている(※2)。

 コロナウイルスも人獣共通感染症で、最初に発見されたのが1965年という新しいウイルスだ(※3)。このウイルスが注目されたのはSARSが流行した時で、SARSの自然宿主は当初、ジャコウネコと考えられていた。

 その後、同じウイルスがコウモリ(キクガシラコウモリの一種、Rhinolophus sinicus)で発見され、現在ではコウモリのSARSウイルスが共通祖先としてヒトとジャコウネコに感染したとされている(※4)。ちなみに、いわゆる南京虫、トコジラミ(Cimex lectularius)もコウモリからヒトに寄生先を変えた生物だ(※5)。

 SARSウイルスやMARS(MARS-CoV)ウイルス(コウモリ→ヒトコブラクダ→ヒト)などのコロナウイルスの研究が進んだ結果、コウモリはコロナウイルスなどの新たに出現したウイルスの「貯水池(Reservoir)」と考えられるようになった(※6)。

 SARSウイルスと遺伝子が96%同じ新型コロナのウイルスも同じようにコウモリが自然宿主と考えられているが(※7)、なぜコウモリはウイルスを貯め、主要な感染源になっているのだろうか。

コウモリはウイルスの貯水池

 コウモリという生物の特徴は、その種類の多さだ。哺乳類の種類の約20%がコウモリとされ、その種類は900種を超える。分布域も広く、ヒトとネズミなどのげっ歯類、クジラ類と同様、地球上の広い範囲に棲息している。

 また、哺乳類の進化の中では比較的プリミティブな生物で、多くの哺乳類が持つ遺伝的特質の原型を持っている。つまり、コウモリの古い形質の遺伝子で保存されてきたウイルスは、変異すると他の哺乳類へ感染する能力を持ちやすいことになる。

 種類によってはかなりの長距離を飛翔するのもコウモリの特徴だ。つまり、ウイルスを広い範囲に感染させる能力を持っていることになる。広範囲に多種多様なコウモリが分布し、広大な空間を移動するわけだ。

 多くの種類のコウモリは冬眠することが知られている。ウイルスもコウモリとともに越冬し、長い期間、生きながらえることができる。また、コウモリ自体の寿命も長く、30年以上も生きながらえる種もいる。こうした意味でもコウモリはウイルスの貯水池になるのだろう。

 ヒトのトコジラミがコウモリ由来だったように、コウモリは哺乳類の血液を吸うダニやシラミなどを媒介しやすい。こうした寄生虫からウイルスが感染することもある。

 さらに、コウモリは湿った洞窟や木の洞などに集団で棲息する種が多い。そもそもコウモリの個体数は多く、こうした集団が密集することでウイルス感染のパンデミックを起こしやすい。また、個体数が多く、容易に捕まえることができるのでヒトの食用になることも多い。

 コウモリの認知やセンシング、コミュニケーション手段はエコーロケーション(反響定位)だ。口から発する超音波が跳ね返ってくることで、飛行したり位置を認知したりする。その際に飛び散る唾液などを介してウイルスが感染しやすくなる。

 以上をまとめると、コウモリはウイルスが好みやすい環境に棲息して大集団を形成し、広く分布して長距離を移動し、哺乳類の多くに共通する遺伝的な特徴を持ち、ウイルス感染によるパンデミックや他の哺乳類にウイルスを感染させやすい特徴を持っているということになる。

 一方、コウモリの生息域は自然破壊で狭められ、劣悪な環境で暮らさざるを得なくなっている。また、地球温暖化で分布も変化し、これまでヒトとあまり接触しなかった種類のコウモリが身近に現れるようになってきた。

 コウモリという貯水池のウイルスが変異しやすく、ヒトに感染しやすい状況になっているというわけだ。新型コロナウイルスもコウモリからヒトに感染するようになったが、これからも新たなウイルスが出現し、人類の脅威になるかもしれない。

※1:Preston A. Marx, et al. "Isolation of a simian immunodeficiency virus related to human immunodeficiency virus type 2 from a west African pet sooty mangabey." Journal of Virology, Vol.65(8), 4480-4485, 1991

※2:Kevin J. Olival, et al., "Host and viral traits predict zoonotic spillover from mammals." nature, Vol.546, 2017

※3:Jeffery S. Kahn, Kenneth Mcintosh, "History and Recent Advances in Coronavirus Discovery." The Pediatric Infections Disease Journal, Vol.24, Issue11, 2005

※4:Susannna K. P. Lau, et al., "Severe acute respiratory syndrome coronavirus-like virus in Chinese horsehoe bats." PNAS, Vol.102(39), 14040-14045, 2005

※5:Sandor Hornok, et al., "Phylogenetic analyses of bat-associated bugs (Hemiptera: Cimicidae: Cimicinae and Cacodminae) indicate two new species close to Cimex lectularius." BMC, Parasites & Vectors, doi.org/10.1186/s13071-017-2376-1, 2017

※6-1:Charles H. Calisher, et al., "Bats: Important Reservoir Hosts of Emerging Viruses." Clinical Microbiology Review, DOI: 10.1128/CMR.00017-06, 2006

※6-2:Zhengli Shi, "Bat and virus." Protein Cell, Vol.1(2), 109-114, 2010

※6-3:Jie Cui, et al., "Origin and evolution of pathogenic coronaviruses." nature reviews microbiology, Vol.17, 181-192, 2019

※7:Peng Zhou, et al., "A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin." nature, doi.org/10.1038/s41586-020-2012-7, 2020

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